東京オリンピックを通して、原沢は自身の進退について考えていた。
日本柔道の価値観ではオリンピックで金メダルを取ることが全てとされ、また次のオリンピックで金メダルを目指して再出発を試みるには年齢・体力・メンタルの面で自信を持って現役続行を公言できない。
その様な事を考える中で、「もっと自分を信じて、自然体で、本能のままに戦ってみたい」という思いが芽生え、明確なゴールは定めず柔道というものを続けてみようという思いにいたった。
そして、メインスポンサーを原沢選手の地元である山口県、下関市の企業(長府工産)について貰える事となり、また新たな発見があった。
今までは、オリンピック・世界選手権で金メダルを取る事が地元への恩返しとなると思っていた。しかし、地元の応援してくださる方々はただ戦う姿を見て喜んでくれていた。
そんな地元への感謝から、長府工産やアディダスの協力をいただき毎年、子ども向けの柔道教室を開く事もできている。
現在は、そうやって競技としての柔道だけではなく柔道の普及の面でも自身に何かできる事がないかと考える様になった。
競技面においても向上が見られた。世界を相手にしている時は相手のことを研究し相手のことばかり考え自分の柔道をする意識が疎かになっていた。しかし今は思うがままの自分の柔道をすることができ、見ている人からすると組み合っている原沢選手からは何かやってくれるんじゃないかという期待感が滲み出ている。
そして、昨年2024年の全日本選手権では決勝まで駒を進め、原沢久喜らしい豪快な柔道で日本武道館を沸かせた。

決勝では判定2-1で敗れたものの、決着の後に見せた笑顔と相手選手を讃える握手は、何かの為ではなくただ純粋に柔道を楽しんでいる様に見えた。
4月29日に行われる全日本選手権での原沢久喜の活躍に期待してこの連載の結びとさせていただきます。
ありがとうございました。
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